妻と私は、マサチューセッツからD.C.へ移り、アパートで犬を飼っていい事が 分かった時、自分たちが犬を飼いたい事も分かった。 彼女は、街には飼ってくれる家がないいい犬がとてもたくさんいるから、 それを養子にしようと熱心だった。私にとっては、4本足で眼が2つあれば、 何でもいいと思っていた。我々はほぼ合意可能だった。

私たちは、
Rappahannock Animal Shelter の開催した養子縁組フェアで犬のグレンデル(Grendel the dog)と遭った。 そのフェアは、ペットショップの PetSmart の中で開かれていた。 そこは、犬が空腹になるかうんざりするか、その両方のような匂いが充満した、 思い返すとちょっと残酷に見える場所だった。 犬たちの殆どは大声で鳴きケージを引っかいていた。 (彼らの思考パターンはこんなだった:きっとすごく大声で鳴けば、ここから 出られるに違いない。わんわんわん。ドアを試してみよう。ちくしょう、 そんなに甘くないか。よし、もっと鳴けば。わんわんわん。なにもなし。 よし、さては…) しかしそこにいた、黒と灰色の毛の小さな犬は、ケージの中で腹ばいになり、 音も立てずにまっすぐ前を見詰めていた。TVの前に寝転んで、 土曜の朝のアニメを見る子供のように。 彼らは彼をケージから出してくれたので、私たちは彼をよく見ることができた。 彼のことを、小さなウィーン犬の仲間の Lhasa Apso そっくりなんて言いながら。 彼の毛は極端に短くて、ほとんど肌が見えるくらいだった。 彼はヒヒが可愛いと言うのと同じ意味で可愛く、--つまり醜く、 けれど彼には品格があった。彼は、戦士が地雷原を歩く時にはそうするだろうと 思われるように、注意深く動いた。

それから彼らは言った、「あの目、本当にかわいそうに」。 我々が彼の左眼がないのに気づいたのは、それを聞いてからだった。 彼の毛皮はとても黒くて、本当によく見ないと分からないのだ。 明らかに誰かが彼を死の淵から救ったのだ。その頭骸骨は殆ど砕けていた。 獣医の推測では、誰かが彼の頭を蹴ったか、 彼は毛皮の下にも傷があったので、あるいはもっとひどいことをされたとも考えられる (その傷の治療のため毛を剃られていたので、あんなに毛が短かったのだ)。 この犬は大雑把に言えばスケートボードくらいの大きさで、どんなに重く見ても 15ポンド以上ではないだろう。彼がこんな酷い扱いを受けなければいけないような どんな悪い事をしたのか、それを想像するのは読者にお任せする。

シェルターが彼を外へ放したいと考えていた事実に反し(きっと片目の犬の需要は 余り高くないと思われる)、我々は養子縁組料の$150を支払い、彼を家に連れ帰った。 そして最初にしたことは、彼の名前を
Hoover (なんじゃこりゃ) から、 Beowulf に出てくる、やはり片目の怪物からとって、 Grendel に、変える事だった。 (妻と私は、共に英語専攻なのがちょっと皮肉な小話っぽいが、黒猫に「しろ」とか いうような名前をつけるのが好きだった)

我々は彼を獣医の定期養子縁組後健康診断に連れて行った。「彼は元気だ」と 獣医は言った、「でも彼の頭蓋骨は何ヶ月かで割れてしまうかもしれない」。 これは明らかに、私が以前は思い描いたことのない、新しい元気の定義だった。 人々の殆どが、太りすぎた、またはノミのいる犬を飼っている。 うちの犬は頭蓋骨が割れかけている。 確かに、Lhasaは頭蓋骨と比べてあんなに大きな眼をしているので (彼らはちょっと
Power Puff Girls に似ている (訳注: Power Puff Girls は、日本でも、2007年11月頃Tokyo MXテレビで放映していた。 また、多分日本でリメイクされたパワパフガールズZが、2007年6月頃、 TV東京系で放映されていたらしい。 )、 眼がなくなれば頭がその内側に崩れ落ちてしまう可能性はあったはずだ。 幸いにも、そうした事は起こらなかった。

獣医を去るにあたり、受付係がそれ以降何回も受けることになる質問を訊いてきた: 「あんたの犬、眼が片方しかないよ、知ってたかい?」 この質問はいまや全く日常になっているので、妻と私はいつもこう答える。 「え、なんだとっ?なんてこったいっ、おお、神よ!彼のもう一方の目は、 一体全体どこへ行っちまったってんでいっ!」
又はより幸運な時、彼が身仕舞いがよかったり裕福そうだったら、
(訳注: if he's being groomed or boardedってどういう訳つけたらいいの?)
我々はこう言うことにしている。
「いや、来た時は2つあったんだ!診療費の値引きを要求したい!」

虐待されていた犬にはよくあると言われていたとおり、 最初うちへ連れてきた時、彼は非常に神経質だった。 彼はこそこそと餌のボウルに行き、口に一切れくわえ、コーヒーテーブルの下に 逃げ込んで食べたりしていた。 しかし私はこれを変には思わなかった。私も妻が見ているところでは、 全く同じような食べ方をしていたから。 彼はまた視覚機関の欠損に適応するのにも、苦労していたに違いない。 よく頭を左右に激しく振ってテーブルの面にぶつけたり、 全速力で物に衝突したりしていたから。 しかし彼は迅速に回復し、そして不幸な出来事は何もなかったかのように、 ハマグリみたいに幸せに暮らしているように見えた。 (私にはこれが見かけだけで、混雑した街路を歩いていて転びそうになったが 何事もなかったかのように装って歩きつづける時のようなものなのか、 眼を切り取る際に脳の一部頭葉を切除されたためなのか、分からなかった…。 彼と3年暮らしてきて、私は後者が正しいのではないかと考えるようになった)


総括して、彼は私が見た中で最も振る舞いのよい犬の中の一人だ。 彼は他の犬に対してさえも殆ど吼えず、他人(特に子供たち)と接するのを好む。 声を大にしてまでは言わないが、私は人々が、近頃のブリーダーたちが セールしているおしゃれな2つ目の仔犬じゃなくて、 Rappahannockのような避難所から養子をもらってくる姿を見たいと思う。 彼は毛の短い、片目のラサ犬とウィーン犬の混血なので、 ウェストミンスターの台の上に立つことはありえないのは確実だが、 それでも彼が同じくらいいけてることに変わりはない。