メインページへ あたらしい「じょうほう」へ わたしの「せいかつ」へ わたしの「ともだち」へ わたしの「かつどう」へ みんなの「ひろば」へ わたしの「え」へ

 

海外旅行へ行こう!!!

〜介助者と一緒に旅をするときは?〜

成田にて

 

重い障害を持ちながら

私は、脳性麻痺による四肢麻痺を持っています。年をおうごとに頸椎症が進み、排泄もままならない状態になりました。現在は、24時間、介助者とコミュニケーションをとりながら日々の生活を送っています。それでも、私は、介助者と一緒にいろいろな障害者向けのツアーに参加してきました。ハワイ、カリフォルニア、ヨーロッパ、カナダ、フィリピンなど今までに訪れた旅の想い出は私の大切な財産です。

 

障害者の旅は便利になってきています

はじめて海外(ハワイ)を旅したのは、今から20年あまりも前のことです。当時、車椅子を考慮して整備された場所は非常に少なく、空港も例外ではありませんでした。リフトやエレベータなどはなく、階段は介助者に背負ってもらって上がりました。ですから、飛行機に乗ること自体が私にとって、それから介助者にとっても非常に困難なことでした。さらに、為替レートの関係もあって、多額のお金のかかる海外旅行は、介助者分の旅費も考えなくてはならない私にとって金銭的に大きな制約となっていました。海外旅行は当時、非常に難しいことだったと言えます。

しかし、20年の月日が流れる間に、車椅子利用の障害者への空港などにおける対応が少しずつ変わってきています。飛行機内での移動は、相変わらず不便なのですが、空港内の移動はスムーズに行えるようになってきました。旅行会社などの側にも変化がみられました。より多くの障害者向けのツアーが扱われるようになり、また、障害者当事者が仲間たちで旅行会社を設立した例もあります。

金銭面でも海外旅行が一般的になってきた現在、重い障害を持っていても、海外旅行は以前のような見果てぬ夢ではなく、より身近なものとなってきたのです。

 

個人旅行への挑戦

私は、今年の8月から9月にかけて、25日間、北欧4カ国(ドイツ・デンマーク・フィンランド・スウェーデン)の旅をしました。4人の介助者と一緒のまったくプライベートな旅です。

今までの私の海外旅行はすべて団体ツアーでした。ですから、今回は自由気ままな個人旅行に挑戦したかったのです。ところが残念なことに、その様な旅は私のような障害が重く体力も衰えてきている者にとって、あらゆる条件が整わない限り、今の環境では不可能に近いのです。私のような四肢麻痺の障害を持つものは、まず、目的や体力に沿って、たとえば旅先をどこにするか決めたら、その場所の環境がどこまで整っているか情報収集しなければなりません。そして予算や日程、介助者の確保、宿泊先の条件、交通アクセスの手段などを綿密に調べ、確かな情報を得ることが必要です。今回の旅はその点で、かなり準備不足であったと反省しています。私の中に「北欧は福祉の先進国でもあり、今回で2回目だ」といった安易な考えがあったせいか、かなり大変な旅になってしまいました。

 

個人旅行を成功させるためには

やはり1番ポイントになるのは、介助者とそれにかかる費用のことだと思います。介助者については、自分との関係がうまくとれやすく、ある程度経験のある介助者を選んで行くということが肝心です。さらに、出発前に十分話し合いを持って、介助者として同行してもらうという立場を明確にしておいた方がいいと思います。旅費と介助料の持ち方についても、自分の気持ちを伝えて話し合い、お互いに納得のいくスケジュールを組んで、無理のない楽しい旅にすること。(これがなかなか難しい。)

そのほかのことは、自分の希望をはっきり出した上で、旅行会社とコミュニケーションをとりながら頼んだ方がよいと思います。今回は、団体ツアーでは味わえない飛行機以外の交通手段をなるべく使って、列車や船で移動したり、その街を車椅子で歩きたいという私の希望をかなえられて、列車から見た風景や車椅子で街を歩いた思い出は、心に残りました。

けれども、いつも旅行をするときに私が不便に感じることは、海外旅行や国内旅行も含めて、飛行機が車椅子に対してもう少し配慮されてもよいのではないかということです。特に日本の航空会社は海外と比べて、障害者対応に乗務員があまり慣れていないために、前もって車椅子使用者であるということを航空券を買うときにも伝えたり、乗る一週間前にも確認をしたりしなければなりません。そのことは、列車にのるときも前もって知らせておく必要があります。また、旅客機の座席に移らなければならないのですが、自分の車椅子から座る席までの移動の設備が、20年前と全然変わっていないと思います。トイレに関しても、座位を保つことができない車椅子の障害者にとって、まったく使用することができないので、何か他の方法(例えばオムツなど)を考えなければなりません。バスや電車などの他の交通機関の設備と比べて飛行機の設備は、まだまだ遅れているとおもいます。せめて一週間に一便でもよいので、障害者用のスペース(座席を広く取るとか、まっすぐ寝ていかれるようにリクライニングができる椅子)があれば私みたいな障害者でも快適な旅ができるようになるのではないかと思います。

それから、気をつけなければならないことは、荷物の問題です。手動の車椅子を押しながら、介助者が大きなスーツケースやリュックを運ぶことは、今回の旅行でも大変だったので荷物は最低限に抑えたほうがよいでしょう。費用はかかりますが、足りないものがあれば向こうで買ってお土産に持って帰るというように考えた方がよいと思います。何しろ、介助者と当事者の双方の負担を少なくすることは、お金に代えられないことと考えるからです。また、ホテルなどの宿泊施設は、エレベーターや部屋のドア幅が自分の車椅子と合わないことがあるので気をつけて選んだ方がよいでしょう。トイレやお風呂の中に手すり、シャワーチェアー等の設備が整っているところが少ないので、わたしは今回泊まったホテルにわがままを言って、プールサイドにある椅子を使わせてもらいました。

アメリカやカナダに比べてヨーロッパは、古い建物や石畳が残されているため、車椅子での歩行はかなり体にひびき、介助者にとっても負担が大きかったようです。

介助者と楽しく旅をする方法

 いくら仲の良い恋人同士や友達でも、一日中顔を合わせて、長期間旅を続けると良い関係を保つことは困難になってきます。1度や2度は喧嘩をしたり、どうしてもわがままが出てしまうので、この旅の本来の目的は何であるのか、相互に再確認することが大切だと思います。

荷物の扱いとか、運搬とか、その時間の組み方とか、そういったことは、個人で行く場合、いっさい個人の責任において、やらなければなりません。今回の旅は、そういうツアーでない旅を味わいたいと思い、個人で計画したことが、自分の障害と体力を考えながら、計画すべきでした。けれども、現地の情報を集めたりしなかったため、そのかけていることが旅の大変さに反映してしまいました。

今度の旅で、北欧はこれからの福祉に携わる仕事をしていて、私なりにとてもよい勉強になりました。それは旅行した4人の介助者にとっても同じだと思っています。各国の自立生活センターがどのような形で運営されているのか、またデンマーク、スウェーデンの在宅障害者に対してどのような制度があるのか、パーソナルアシスタント(介助者)にはどの程度の保障がなされているのか、この目と耳で確かめてきたかったのです。そしてそのことがこれからの日本の福祉のあり方に大きく影響を及ぼすことだと思います。

大変な旅でしたが、25日間の中でいろいろな体験をし、それなりに得るものは大きかったです。海外、国内を問わず、旅をするたびにそのところどころで様々な人に出会い、友達も増え、視野が広くなるのを感じます。

私はこれからも体力が続く限り、いろいろな旅に出かけたいと思います。人間にとって旅は人生そのものだと思うから。

〒158 東京都世田谷区中町5−35−7

山口成子(やまぐちしげこ)